30年振りに演劇を見た。演目は『赤シャツ』
漱石の坊ちゃんに出てくる、あの有名な赤シャツである。
坊ちゃんが親譲りの無鉄砲なら、赤シャツは親譲りの八方美人。
お互い子どものときから、損と苦労ばかりしている。
今回のマキノ版赤シャツは、人間関係に気を遣いすぎて、
自分の言うことをはっきり言えないまま、胃を痛めている中間管理職。
赤シャツの側から現代を見据え、現代のひずみを映し出す。
「男らしくなりたいなぁ。」
「坊ちゃん先生や堀田君のようになりたいなぁ……」。
と、嘆く赤シャツの言葉はすごく印象的でした。
それにしても、こんなに演劇を観る人がいるのに驚いた。
しかも、ほとんどが女性。
この時間男性はどうしているのだろうか?
ちゃぶ台を前に野球を見ながら缶ビールでも飲んでいるのだろうか。
一寸古いかな!もし、そうなら寂しい限りだ。
ますます、女性との平均寿命は広がりそうだ。
短絡的だが男性より女性の自殺者の少ない訳がわかったような……。
…
隣の人が手を動かす度に着物の袖が私の腕を撫でる。
息遣いが袖を通して伝わってくる。
おしろいの香りが鼻先をかすめていく。
舞台ではマドンナが赤シャツと話している。
私の隣では和服姿のマドンナが手をたたいている。
見ず知らずのマドンナと時間を共有できた。
おしろいの香と和服姿のマドンナ。
時間と空間を共有した、至福のときだった。