東京にいるときから喫茶店が好きでよく通った。
街を歩いていて、感じのいい喫茶店があると入った。
何を求めて入るかって。
それは、やはり、やすらぎかな。
フカフカのイス、広い空間、静寂、コーヒーの香り。
これだけ揃っていたら、満足!
そこで、ゆっくり本を読む。
あるいは、話しをする。
最近、そんな場所が少なくなった。
特に都会に行くと、狭い上にザワザワしている。
隣の声が良く聞こえる。
下手すると、袖が擦れ合うほどの空間しかない。
よくあんなあんなところで、お茶が飲めるもんだ、と思う。
でも、郷に入れば郷に従え。
て、いうか他にないので仕方なく入る。
……
今日は、有田で理想的な喫茶店に入った。
理想をすべてかなえてくれる喫茶店。
それは、私にとって、喫茶店という枠を超え、ひとつのやすらぎの空間とさえいえる。
一人で行ったので、カウンター席に座った。
コーヒーを飲みながら本を読んでいた。
左側にご婦人が座ったところまではよかった。
いっときすると右側に30前後の女性が来た。
しかも、かなりの美人。
途端に意識はバラバラになり、集中力はなくなり、目は右側に片寄ったままで戻らない。
やすらぎの空間は、ワクドキの空間に変わってしまった。
ワクドキの空間も悪くはない。
息のかかりそうなころに、まったく知らない赤の他人がいる。
「何処から?」と声をかけても不思議ではない距離感。
でも、声はかけなかった、というかかけられなかった。
喫茶店を出てから思った。
私は何を求めて入った?
やすらぎ感、それともワクドキ感?
……
ついでに、
彼女は、何を求めて入ったのだろうか?
と、心の中でつぶやいた。