一番の自慢は好き嫌いがないこと。
56年生きてきて、出されたものを残したのは1度だけしかない。
あの日のことは忘れもしない。
特別に暑い夏だった。
玉川大学のスクーリングに通ったときだった。
昼休み喫茶店に入った。
野菜炒め定食を頼んだ。
出てきた料理を見て唖然とした。
野菜炒めとは名ばかりで、殆どが玉葱だった。
たしかに、玉葱は野菜ではある。
誰が見ても野菜である。
それは認めよう。
しかし、玉葱ばかりの野菜炒めなんて聞いたことないし、見たこともない。
白い皿に細くきられた玉葱がピラミッドのように盛ってあった。
愚痴ったところで玉葱が野菜に(?)変わる訳でもないし覚悟を決めて食べることにした。
玉葱は嫌いな訳ではない。むしろ好きなくらいだ。
順調なすべり出しだ。快調に飛ばした。
ピラミッドは半分ぐらいに減った。
でも、半分ぐらい過ぎてから異変が起きた。
口の中がヌチャヌチャ、ヌルヌルしてきた。
そればかりなら良かった。
玉葱のあの独特な匂いが口の中に充満してきた。
匂いは鼻腔を通して脳にまで達してきた。
鼻からSLの吐き出すような白煙が出ているような気がした。
目から涙も出てきた。
喉もひりひりしてきた。
必死になって食べたが、ついに力尽きた。
3分の1を残して白旗をあげた。
1度だって残したことのなかったプライドは引き裂かれた。
生まれて初めて出されたものを残した。
おてんとう様に申し訳ないと思った。
食べるものもなくて、飢えて死んでいく地域の人に悪いと思った。
料理を作ってくれた人に悪いと思った。
好き嫌いのない私を創ってくれた両親に悪いと思った。
でも、仕方がない。
どんなに努力したって出来ないものは、出来ないのだ。
ピラミッドの残骸を見て思った。
これは唯一の汚点になるだろうと!
以来、出されたものは残したことはない。
全て平らげてきた。
自慢できることはこれくらいだ!
大きな声で言えないが?