田舎に小学生のときからの友達がいる。
そいつとは、不思議な縁があるのか、帰郷する度に道ですれ違う。
先日も母を見舞ったあと山にブラリと出かけた。
葉が色づきはじめている。
道脇の雑木のなかに柿の実がなっていた。
誰も盗る者がいなくて寂しそうだ。
我々が小さいときは、色づく前に争って盗ったものだ。
芯だけが甘くて、周りはまだ渋かった。
渋いところをかぶりついては吐き出し、甘いところだけを食べた。
こんな感じで、柿は熟す暇さえなかった。
ところが今は、誰も盗るものはいない。
木上で熟したあと、地に落ちるか、鳥に食われるだけである。
それではあまりにも惨めなので、盗ってやることにした。
3個とってポケットに突っ込み、かじりながら山をぶらついた。
やはり、天然の味は違う。
光をあびた味がする。
懐かしい味がする。
……
かぶりつきながら、山道を登っていた。
天上から光線が一本の棒のように射し込んでくる。
人影はまったくない。
当たり前である、こんな所にいる訳がない。
中腹まで行ったとき、前方からトラックが来た。
車のドアを開けて、「ヤ~」という声がした。
友達が窓から身を乗り出してきた。
例の、不思議な縁のある友だった。