小さい頃祖父ちゃんは炭を焼いていた。
窯の中は真っ赤な炎が踊っていた。
狐狸庵に行った時、すぐ近くに炭窯があった。
懐かしかった。
祖父ちゃんの炭窯は家から歩いて5分のところにあった。
今は道も広くなって車も行けるようになっている。
当時はリヤカーが通るのがやっとだった。
途中竹林があって、昼間でも薄暗く気味が悪かった。
竹林を過ぎるとパッと明るくなり、右手に祖父ちゃんの窯が見えた。
冬になるといつも祖父ちゃんはそこにいた。
窯出しの日は楽しみだった。
炭を出した後の残り火で焼き芋を作ってくれた。
窯の横に小さな穴を掘り、そこに生芋を入れ上から炭をかぶせた。
口の回りを黒くして、フーフー言いながら焼き芋を食べた。
祖父ちゃんは小学1年生になったときに亡くなった。
朝、誰かに「祖父ちゃんが死んだぞ」と言って起こされた。
棺おけの中に祖父ちゃんは座っていた。
棺おけを担いだ行列は竹林を過ぎ、炭窯の横を通った。
子ども心に思った。
「祖父ちゃんの炭窯だ」と。
亡くなった後も炭窯は残っていた。
空洞になった窯の中で遊んだ。
梅雨時は暗くてジメジメしていたので、ゲジゲジや蜘蛛がいた。
今、思うとぞっとするが、当時は平気で遊んでいた。
今は跡形もない。
跡形はないけど、頭の中に残っている。
祖父ちゃんは今も、
炭窯の横で丸太にすわりタバコをくわえている。
いかにも美味そうにくゆらせている。