部屋の中からは先端しか見えなかったので小さく感じた。
窓を開けて乗り出して見たら、根元がかなり大きい。
こうなったら、どこまで大きくなるか試してみよう。
まさか、家よりは大きくなるまい。
家より大きくなったら、蜂と一緒に協同生活だ。
超有名になるだろう、蜂の巣に呑み込まれた間抜けな人間として。
大きくなりすぎた山椒魚は、穴から出られなくなった。
私は、大きくなりすぎた蜂の巣に呑み込まれて、家から出られなくなった。
面白い小説が書けそうだ!
田舎に住んでいたころ、蜂にまつわる話をよく聞いた。
勿論私も話に花を添えた。
夏休みだった。
家の前の広場で地方劇団の芝居をやっていた。
演目は『四谷怪談』
芝居小屋に小さな足長バチの巣を見つけた。
棒切れで蜂の巣を叩き落したまでは良かったが、わずか1匹の蜂に目の上を刺された。
目の上はボッコリと、目が見えないほど腫れた。
まるでお岩さんみたいになった。
私を薄暗闇の中で見た友達は、ビックリして腰を抜かした。
今でも言われる、「あん時のミツボーは幽霊のごたった」と。
嘘のような、本当の話だ。
よりによって、四谷怪談をやっているときに刺さなくても良いと思う。
もっとも、巣を叩き落した私も悪いのだが!
……
叩き落したで、連想した。
飛んでいるスズメバチを叩き落した奴の武勇伝。
まだ生きていたので、つま先で踏み潰そうとした。
その瞬間、親指の先に焼き火箸を当てられたような痛みを感じた。
よく見ると、靴の先に穴が開いている。
敵も然る者、最後の一突きを靴の穴に向けたのだ。
教訓……蜂を踏み潰すときは、穴が開いてないかどうか確認してから実行のこと。
自然は教訓に満ち溢れている?